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議会報告

2011年第1回定例市議会本会議総括質問(2011年3月10日・長谷川薫議員) 【2011/4/11】

2011年第1回定例市議会 本会議総括質問 (2011年3月10日 長谷川薫議員)

1、最初に地域経済振興策および中小企業支援策について質問します。

 質問の第一は、前橋市中小企業振興条例の制定についいてです。
 
 @市内の中小企業および自営業者の数は、全事業所の99%で約16.000、従業員は全雇用労働者の88%で約13万人です。製造・建設・小売り、サービスなどあらゆる分野で多くの雇用を創出し、利益を地域に還元し、地域内循環の中核を担うとともに、ものづくりの技術を通して社会的な責任を果たし、地域づくりに貢献するなど、本市の発展のために多彩な役割を果たしています。
ところが、中小企業は長引く不況の下で、仕事の減少と単価の引き下げなどで苦しい経営を余儀なくされ、雇用されている労働者の所得も減り続けています。
いまこそ、中小企業支援策を抜本的に強めなければなりません。本市の来年度の当初予算では、商工費として約184億円の予算を計上していますが、その中心は制度融資や利子補給の170億円であり、予算額の92%を占めています。
いま中小業者は売り上げや仕事が減りつづけているために、借金をしても将来返す見通しが立たなく、融資を受ける元気もないのが実態です。支援策が融資だけでは不十分であることを示しており、不況の中でも経営状態が改善するような新製品や新技術の開発や販路拡大・人材育成などの支援策を強めなければなりません。
 
このような中で10年前から、全国の自治体で、中小企業振興条例の制定が進んでいます。すでに15道府県53の市区町で制定され、大きな力を発揮しています。条例はこれまでの補助金や融資の根拠条例ではなく、中小企業を地域づくりの主人公と位置づけて、自治体、中小企業、大企業、大学、住民などの役割を明確にして、地域の特性に合わせた多彩な中小企業振興策を具体化しています。
 本市においても、前橋市中小企業振興条例を制定して基本理念を定め、停滞している本市の地域経済の本核的な活性化のための施策を推進すべきだと思います。当局の見解をお聞かせ下さい。

 A消極的な答弁で大変残念であります。

 条例制定の必要性・重要性を感じておられないのは、本市の中小企業や自営業者が何を求めているのかを十分把握していないからだと思います。苦境に立たされている中小企業や自営業者を支援するために、市がとともに汗を流そうという姿勢が必要だと思います。
これまでにも何度か紹介しましたが、全国に先駆けて1979年に「振興条例」を制定した東京都墨田区では、制定の前の年に、区役所の係長級職員165人が、区内の全製造業9314社にみずから足を運んで実態調査を行ないました。この調査で、家族労働に支えられ長時間労働で必死に頑張っている中小企業の経営の実態を把握したことで、区長や職員の認識が一変し、商工部だけの縦割り行政を改めて、福祉や街づくりなど総合的な支援策を強めています。また、昨年の夏、党市議団として視察した北海道の帯広市では、2007年に振興条例を制定し、その条例を具体するために制定後の1年間で74回も行政と事業者が手弁当で議論を重ね、工場誘致などの呼び込み型から内発型の地域振興に軸足を移すことが重要との認識に立ち、新たな産業振興ビジョンをつくりあげました。そして、経営者・地元金融機関・自治体職員が一体となって構成する中小企業振興会議を作り、新商品開発や販路の拡大など地元中小企業の声を生かした振興策をつぎつぎと打ち出しています。

 私は、本市も県の動向に左右されず、振興条例を制定した先進自治体に学んで、本市も条例を策定にむけて、市内中小企業や自営業者の経営などの実態調査やそれにもとづく産業振興ビジョンづくりを急ぎ、前橋市と中小企業経営者・業者の共同の努力を積み重ねて、地域にあった振興策を打ち出していくことが必要だと思います。
 中小企業者の要望・提案にこたえて、政策を立案するなど、前橋市の実情に合った振興策を具体化する中で、事業者の責務や行政の役割を明確にした条例制定の必要性が高まってくるのではないでしょうか。

 そこで伺います。商工部を中心にして地域を支えている市内の中小企業の実態調査とその分析をできる限り速やかに行うべきです。従業員4人以上の市内の工業分野の製造業の事業所は約550社ですから、少なくとも段階的に事業所を訪問して聞き取る実態調査は可能なのではないでしょうか。見解をお聞かせ下さい。

 B従来の延長線の企業調査の実施を求めているわけではありません。
本市の地域経済を支えている中小企業の支援策を抜本的に強める立場からの提案であります。これまでは、ともすれば本市も含め多くの地方自治体の地域経済活性化施策の中心は、道路や工業団地造成などの大規模公共投資に力を注ぎ、企業誘致条例を制定して企業への補助金で誘致を誘導し、大企業や大型商業施設の誘致に成功すれば「雇用が拡大され、地域が活性化」するというものでした。
 しかしこの手法では、必ずしも地域経済の持続的な発展にはつながりません。単価の引き下げなど大企業による不公正な取引の強要や大企業や大型店の身勝手な出店や撤退、銀行の貸し渋りや貸しはがしなどで、中小企業も雇用も地域経済の活性化も犠牲にされてきたのが実態であります。

 本市においてもヤマダ電機本社の高崎市への移転、ダイハツ車体や東芝機器の撤退、イトーヨーカドーやサティーの相次ぐ閉店に端的に示されています。
 そこで伺いますが、地域経済活性化のためには、市の産業構造の特色に合わせて、現に市内にある中小企業の力を育て伸ばし、そのことで雇用と消費を増やし、さらに力をつけることを柱にした振興策に転換を図るべきです。前橋市と地元中小企業、農家や協同組合、NPOなど住民が協力し連携体制を強化して、地域内循環型の経済を強め地域内の再投資力をつくることが求められています。
 不況下の中小企業の支援策を本格的に強めるために振興条例を制定して、新たな探求を市民とともに行なう必要性があると思いますがいかがでしょうか。答弁を求めます。

 ●産業振興の理念を強制力のある条例制定で示し、中小企業や市民とともに前橋市が施策を強め発展させるよう求めて、次の質問に移ります。

 (2)、次に住宅リフォーム助成制度の創設についいてです。

 中道議員の代表質問に対する市長の答弁はきびしい財政状況なので、すぐに実施は難しいが、研究は重ねるという、従来と比べてやや前向きの答弁でした。

 @そこでお伺いします。新規行政施策の導入の是非を検討する場合、費用対効果が最大の判断基準となると思います。私は、この住宅リフォーム助成制度は、少ない費用で大きな事業効果を生み出す典型的な施策だと思いますが、すでに制度を実施している自治体などの状況をどのように認識されているのかお聞かせ下さい。

 A今日、緊急に求められている景気対策は内需拡大、すなわち市民の懐を温め市内での消費の拡大、雇用の確保を図り地域を元気にすることだと思います。リーマンショック以来の経済危機によるリストラ、賃下げ、社会保障の負担増で市民のモノを買う力が落ちています。中小建設業者も同じ原因で仕事がなくなっています。
住民に購買力をつける上で、最も典型的な施策がこの住宅リフォーム助成制度です。住民の要求にそって制度を作ったところでは、需要がすごく広がっております。
家が古くなって、水漏れしたり、トイレや風呂の具合が悪いけれどもがまんしているという市民に、「地元の業者に発注して補修すれば直接補助します」という制度を行政が示し、「それではこの機会にリフォームを」と市民に動機づけをしているのです。購買力が落ちている住民に自治体が少し手を差し伸べた結果、消費が大きく拡大し仕事が増えているのです。制度の実施は、1年前には83自治体でしたが、現在は1県、180自治体に増えています。1年間で2倍に急速に増え続けています。
 
 都道府県段階では、昨年3月から秋田県が「住宅リフォーム緊急支援事業」を創設し、住宅の増改築・リフォーム工事費用の10%・上限20万円を助成しています。同事業は工事費50万円以上で県内に本店を置く建設業者等の施工が対象で、対象戸数7,000戸、12億6,000万円を予算化しました。同制度は県民から大歓迎され、当初の予定戸数を上回る申請数となったために、昨年8月に8億4,600万円を追加補正しています。2月末現在、申請は1万3,820件、工事総額は約298億3,620万円を超え、経済波及効果は約470億円と試算し、予算額21億600万円の約15倍以上に及んでいます。来年度も事業を継続するための予算17億400万円を計上しています。
 
 また、山形県は新年度から実施を決め、岩手県議会や宮城県議会も昨年の10月に住宅リフォーム助成制度を求める請願を採択したことから、県当局が実施を検討しています。群馬県内でも新たに大田・館林・みどり・渋川市が新年度に同事業の実施を予定しています。
今なによりも住民の購買力をつけることが、政治の大きな仕事だと思います。本市では前工団事業継続のために新年度予算も含め3年間で34億円も一般会計からの繰り入れをしていますが、リフォーム助成制度の実施はその10分の1、数億円の予算でスタートできます。国の交付金も活用すれば住宅リフォーム助成制度は実施できると思います。住民に笑顔を広げ、地元の中小企業を潤し、地域経済を元気できる制度だと確信しています。新年度予算には計上されませんでしたので、少なくとも6月補正を組んで、年度途中からの制度創設を求めますが、いかがでしょうか。答弁を求めます。

●一日も早い制度創設を求めて、次の質問に移ります。
 
(3)、つぎに建設工事等の入札・契約制度についてです。
 
 @設計労務単価の引き上げについて伺います。予定価格の積算は、標準的な単価と標準積算基準、さらにそれぞれの工事現場の条件に照らして妥当な工法で施行する場合に必要な経費を積算しています。
ところが市内の建設業者からは下請業者を含めて、最近は予定価格が実際の工事と比較しても下がってきており、公共工事の仕事が少なくなった上に運よく工事を受注しても利益がほとんど上がらないという意見を耳にします。市内の中小建設業者がせっかく受注しても赤字になったり、経営悪化になったのでは問題です。
これは、予定価格に占める割合の高い労務単価が、地域の実態に合わないことが原因だと思います。全国では労務単価は1997年がピークで13年連続して下がっています。国交省・農水省の2省協定労務調査で、毎年実際の賃金を調査して出していますが、不況で賃金が下がり続けているので、設計労務単価が下がっているのです。
 この国の出した単価の使用を、国土交通省は地方自治体に義務付けてはいません。国の表に準拠した県算出の標準歩係表を使っている限り、労務単価は上がりません。よほど景気が良くなって賃金が上がらなければ労務単価は上がりません。生身の人間の労務単価を生活費・技能に関係なく積算するのは間違いだと思います。
そこで、本市は、建設労働者などの標準生計費に見合う労務単価・実勢を的確に捉えた独自の労務単価を設定し、より実態に合わせた積算をおこなう必要があるともいますが、見解を伺います。


(4)●労務単価の引き上げ市単独ではむずかしいとの答弁がありましたので、関連する公契約条例についての質問に移ります。

 @公共工事では、下請け事業者への請負価格が下に行くほど引き下げられて、予定価格の積算基準である「労務単価」も賃金に十分反映されず、現場で働いている労働者の賃金が引き下げられている実態があります。
その結果、全国的には公共工事の質が下がり、高速道路のトンネルなどでコンクリート片の崩落や、地震でプールの天井が落ちてくるなど、住民の安心・安全が損なわれる事態が生まれています。

 民間委託や指定管理の職場では、一般競争入札や評価点数で負けたために業者が代わり労働者が解雇され、雇用が引き継がれても労働条件が著しく引き下げられ、仕事をあきらめて退職するケースも多発しています。さらに、人件費を低く抑えるために、正規から臨時・非正規への置き換えがすすみ、公共サービスの質の確保も難しくなっています。2006年7月に埼玉県ふじみ野市で起きた、子どもが吸水口に吸い込まれて死亡したプール事故は、そうした「安上がり行政」の延長線上で起きた惨事です。
 
 このように、小泉構造改革の「小さな政府」と「規制緩和」の強行で、公務・公共サービスとそこで働く労働者の賃金・労働条件が悪化しています。民主党政権は、「地域主権改革」の名でその流れを加速させ広げようとしております。
 
 このような中、公契約に係る業務に従事する労働者の適正な労働条件と賃金を確保し工事や役務の質を確保することを目的として野田市が公契約条例を制定したのに続き、政令指定都市の川崎市が昨年の12月議会で同様の趣旨の契約条例の一部改正が全会一致で可決され、新年度の4月から施行されることになりました。本市においても同様の条例を制定すべきと考えますが、当局の見解伺います。

 ●答弁のとおり、私も国として制度化を急ぐ必要があると思います。
 2009年7月1日に施行された「公共サービス基本法」の11条でも、「公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保、その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする」と発注者の責任を明記しています。
 野田市の市長も「本来は国が法整備を行うべきだ」と全国市長会を通じて国に法整備を求めましたが、国の対応がないために先鞭をつける意味で条例を制定して、労働者に一定額以上の賃金を支払うように求める条例を制定したものです。
国の動向を見守るのではなく、昨年の6月議会で共産党市議団として議案も提案しましたので、条例制定にむけて市当局としても研究を急いでいただきたいと思います。園のことを要望しまして、次の質問に移ります。

2、8番街区の再開発と中心市街地の活性化についてです。 
 
 @市長は、代表質問の答弁で、「中心街に文化機能の施設を集積させて集客力を高め、回遊性を強め、中心街全体を活性化させたい」と答弁されました。
しかし、その一方で、戦争遺跡で有形文化財であった旧麻屋の保存には大変消極的で、平和資料館や博物館や郷土物産店などとしての活用を願う多くの市民の声に背を向けました。
 さらに市長は答弁で、「前橋市の行政運営方針はきびしい財政状況を踏まえて、選択と集中を基本に必要な施策かどうかを評価して実施する」とくりかえし強調されました。
私は8番街区の民間主導の再開発を断念し、突然、文化的機能を持つ施設を整備するという方針を決めた市長の決断は、行政運営方針の立場から見てもあまりにも安易で早すぎると思います。
 文化的機能と強調すれば、新聞報道のように老朽化した図書館の建て替え候補地になるのではないでしょうか。私は、文化施設に限定せず、立地条件・費用対効果などの検討も含め、高齢者の福祉施設や公的な住宅なども選択肢にいれて、何が最適な施設かどうかを住民に投げかけ、市民合意で再開発事業の検討をすべきだと思います。見解をお伺いします。

 Aいま市民の中から、「市長はつぎつぎと箱ものを中心街に整備しているが、本当にこれで賑わいがとりもどせると考えているのか」という意見がでています。
美術館の整備についても、「敷島公園周辺や共愛学園跡地などの閑静な郊外立地を選択すべきだったのではないか」という意見も少なくありません。
 私は、多額の財政を投入して文化的な機能を持つ施設を集積させても、商業機能が中心である中心市街地の活性化が成功するとは思えません。
 けやきウォークの増床が計画されています。南部拠点地区のパワーモール前橋南も更なる大型商業施設出店が予定されています。今こそ、中心街の活性化を本気で進めようとするのなら、南部拠点の出店を規制すべきではありませんか。
8番街区の整備を進めれば中心街が活性化すると安易に考えるべきではありません。安易に多額の財政投入を続ける公共施設整備ではなく、全国的に広がっているコンパクトな街づくりの視点に立つとともに、郊外への大型店出店を抑制する都市計画の検討が必要だと考えますが、見解を伺います。

 ●郊外型の大型店の出店を抑制せず、文化的な機能を持つ公的施設整備を中心市街地に集中させても、賑わいをとりもどせるとは限りません。年間140万人もの元気21中央公民館の来館者が必ずしもまちの活性化に結びついていないことも良く見る必要があります。中心市街地の無理な立地が、費用対効果の点で失敗することになりかねません。8番街区の再開発は慎重に行うべきです。

 3、次に前橋工科大学の独立法人化問題についてうかがいます。 

 @前橋工科大学は、昨年の8月の大学評議会で、2年後の2013年4月に法人に移行すると決定したとのことであります。
全国的に大学間競争は激しくなってはいますが、工科大学は受験者数・入学者数も減っておらず、財務状況も安定しております。経常的一般財源の投入額も約7億円で推移しており増えておりません。さらに、地域貢献のさまざまな取り組みの努力も強められています。このような中で、法人化しなければならない理由を説明してください。

 A答弁いただきましたとおり、全国86の4年生の国立大学は、2004年に法人化されています。旧政権が国際競争力のある大学づくりを看板に、経済効率優先の大学の構造改革を推進したからです。このような中で国立大学は国からの運営交付金は6年間で総額750億円も削減されました。小規模な国立大学の24校分にあたります。さらに加えて基礎的な教育研究費と人件費を各大学とも毎年1%削減することが求められ実行され、財界の求める旧帝国大学などトップ30大学に競争的な予算が集中的に配分されてきました。
 
 このような中で、国立大学法人では、2004年の法人化後すべての大学で授業料が値上げされており、学生の学ぶ権利を狭める事態が起こっています。
さらに大学運営面でも、6年間の中期目標を国が決定し、その達成を大学に義務付け、明らかに学問の自由を脅かしています。大学が中期目標に縛られるため、長期的な視野に立った教育・研究が軽視されてきました。大学は毎年の年度計画とその業績を国に報告し評価を受けます。業績評価はランクづけされて、評価が低い大学ほど予算が削減されました。この仕組みが大学の自主性を弱めるとともに、大学に膨大な教育や研究以外に多くの労力と時間を費やさせています。
 
 公立大学も法人移行後、国立大学と同じような事態が起こっています。旧都立大学である首都大学東京や公立大学法人・横浜市立大学では、知事や市長のトップダウンによる法人化によって、多数の教員が流出しています。
 大阪市立大学では、法人移行後の5年間で経費が20%も削減され、法人事務職員が人材派遣会社の派遣社員でまかなわれています。
また北九州市立大学では、学生の授業評価や教授陣の論文提出本数などを基礎に、大学が教員の業績を評価し、それに応じて給与や賞与だけではなく、研究費まで傾斜配分する仕組みを導入しています。同大学では、効率化や目先の成果を強いられる中、教員アンケートで「やる気がうせた」「客観性や公平性を担保で来ていない」などの声が相次いでいます。
法人化した国公立大学は、大学の自治が後退し、運営費も研究費も削減され、国や企業の委託研究費を獲得するために苦労し、本来の教育研究・地域貢献・就職支援などが弱まっています。法人化は、結局、人件費の削減や経営の効率化が目的であることは明らかです。その結果、大学の自治や学問の自由がないがしろにされる事態がすでに公立大学や国立大学にも起こっています。
このような実態を認識されているのかどうか、答弁を求めます。

B法人化は、大学がより自発性を発揮し、自由な運営を可能にするという改革の理念を強調して進められました。ところが、法人移行後は、財政基盤が逆に脆弱化し、国による評価のもとでの運営は、以前にも増して国や設置者の方針に追随した形で財政支援を獲得せざるを得ず、教育研究の本来の独立性と独自性がかえって失われるというジレンマに陥っています。大学の組織と教員の活気を失わせひいては教育の質の低下を招き、人材育成にも影を落としています。
そもそも大学の危機を生み出した根本的な要因は、国の大学関係予算が先進国で最低水準にとどまっていることです。公立大学も、地方財政の危機の元で教育研究に大きな支障が生まれています。国の地方交付税における大学経費の削減、三位一体改革による国庫補助の廃止は、公立大学の財政基盤を弱めました。
 地方交付税の大学経費の引き上げを求め、公立大学に対する国庫補助制度を確立するなど国の財政措置を強めるよう声をあげることが第一義的に行なわれるべきことです。
法人化を、前橋工科大学は進めるべきではありません。大学の構造改革路線に追随せず、国に設置者としてしっかり要求すべきことは要求し、本来の大学改革を推進すべきだと思います。設置者としての見解をお聞かせ下さい。

●少子化の進行で、全国の大学が優秀な学生を確保するため、競争はさらに厳しくなり、生き残りをかけた大学競争が激化していることは承知しております。この競争に安易に加わるのではなく、学問の府にふさわしい真の大学改革を求めるべきです。

 ヨーロッパでは大学の多くが国公立大学で、国が手厚い財政負担をしています。大学進学率も上昇し、大学が国民に開かれた教育機関として充実しています。わが国は大学への国の財政負担があまりにも少なく、学費が高くのために大学入学率は5割にとどまっています。大学の法人化などの構造改革は国民の立場からの大学の発展を応援するものではなく、大企業の国際競争力に役立つ大学を作り上げるという、財界の要求に沿った改革の推進です。
 経済的利益を生むかどうかをモノサシに、予算の削減と過度な競争を大学に押し付け、学術の発展そのものが危ぶまれる大学の危機が生み出されているのです。大学がこの危機から抜け出して、その本来の役割を全面的に発揮するためには、学問の府にふさわしい教育改革を進めることです。憲法の定める学問の自由と教育を受ける権利の全面的な保障を根本にすえて、大学の自主的創造的な発展を応援することが政治に求められています。


 設置者である前橋市は、工科大の学術研究は、研究者の自主性を尊重し、基礎研究を推進する場を保障し長期的視野に立った学術研究の支援をおこなうとともに、国の競争的研究資金を獲得できるよう市として教授陣を支援し、学生の教育や就職支援のための費用を市がしっかり保障すべきです。国に対しては、大学運営に必要な財政的支援をもとめ、交付税措置をしっかり行なうよう求めるべきです。
また、地域貢献のための地元企業との共同研究や受託研究、さらには環境保全や市営住宅の耐震化など前橋市の行政課題の研究については、学生への教育の妨げにならないよう十分配慮しながら教授陣と行政がもっと連携して拡大して地域貢献を強めるべきです。
中期目標と評価のシステムは、一定期間内にどの程度達成するかをもとめることとなるために、自由な発想と真理の探求にむけての創造性や知的好奇心で進められるべき大学の研究の本質と矛盾しています。適正な評価を否定するものではありませんが、そのため研究のために使い時間が減らされ、事務労働に時間を費やす状況となりかねないことをしっかり見抜くべきです。
 以上申し上げ、安易な法人化をしないように警鐘を鳴らしておきます。

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