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議会報告

議案第29号・前橋市公契約基本条例の修正案の提案理由説明・長谷川薫【2103年3月27日】
【2013/3/28】

議案第29号・前橋市公契約基本条例の修正案の提案理由説明【2103年3月27日】

 日本共産党前橋市議団を代表して、議案第 29 号前橋市公契約基本条例に対する修正案の提案理由説明を行ないます。

 今、歴代政府が強めてきた構造改革路線や規制緩和による市場万能主義政策によって、国民の間に格差と貧困が大きく広がり、自治体が発注する公共工事や業務委託の労働の現場でも、年間所得が200万円にもならない不安定な労働者・ワーキングプアー層が増え続けています。このような事態は、前橋市が発注する公契約の労働現場でも例外ではありません。
 平成23年度には、本市が入札した解体工事や電気設備工事などで18件もの低入札調査価格制度の対象となる低入札があり、今年度も、南橘団地の建て替え新築工事の入札が低入札調査価格制度の対象となりました。今年の2月4日に開かれた前橋市入札監視委員会でも、多くの委員から、「南橘団地の建て替えについては、落札率75.91%では適切な工事の履行がなされないのではないか、施工中もしっかりチェックしてほしい」という強い指摘が行われています。
 今、長引く不況と公共工事の減少の下で、全国的に競争入札においてはダンピング受注が横行し、それが公契約の現場で働く労働者の賃金の引き下げや労働条件の悪化の悪循環を生み、大量の官製ワーキングプアーが作り出されているのです。 
公契約の現場で働く労働者が、人間らしく働き生活できる賃金が支払われるようにすることは、公共工事や市民サービスの質を高めるためにも、また地域経済を活性化させ中小業者の経営を支援するためにも、必要不可欠であります。
このような観点から、前橋市が先進的に、公契約条例の制定に向けて取り組んでいる点は評価するものであります。

 しかし、今議会に提案された基本条例案は、規模にかかわらず市が発注するすべての工事・業務委託・役務・物品の購入及び製造、ならびに指定管理者が行なう公の施設の管理に係わる公契約を条例の適用としていながら、その一方で、契約内容については、最低賃金法や労働基準法などの労働法制や建設業法などの関係法令の遵守と透明性の確保、そして公正公平な入札契約制度の運用を求めるだけの条例案となっています。これでは、公契約条例を制定するという市長選公約の実現を求めていた市内業者や市民にとっては、大変な期待はずれであります。

 とくに、公契約条例の核心部分である公契約に従事する労働者の下限報酬額の定めがなく、さらには条例に違反した事業者への制裁規定も盛り込まれておらず、条例の実効性を確保する措置がほとんど規定されていません。

 昨年の12月末現在、すでに公契約条例が制定され施行されている野田市・川崎市・相模原市・多摩市・国分寺市・渋谷区・厚木市の7自治体は、それぞれ自治体の財政規模や職員体制などによって、公契約の対象についての差異はありますが、共通して下限報酬額を設定した条例制定が行われています。
 これらの文字通り公契約条例制定の先進自治体と比べても、本市の基本条例案は著しく抽象的な理念条例となっており、十分な実効性が担保されていない条例となっております。

 基本条例第24条において、条例に関し必要な事項は、市長が別に定めると規則に委任して定めることとなっていますが、公契約を通じて政策目的を実現するためには、議会において十分な審議・検討を経て規律すべきであり、条例そのものに最も基本的な規定を定めるべきであります。

 また、3月25日付で市長と議会各派に提出された、群馬弁護士会の石原栄一会長の意見書にも、基本条例の不十分な内容を厳しく指摘し理念条例ではなく、実効性のある公契約条例の制定を強く求めております。

 以上の基本的な観点に立って、日本共産党市議団が修正案を提案しましたので、提案理由の中心点を説明いたします。

 第1に、条例が適用される工事や業務委託および労働者の範囲を明確に規定するための修正を加えました。
 そのために、第2条の定義に、(4)号として、労働者の規定を挿入し、事業者及び下請負者に雇用され公契約に係る工事や役務に従事する労働者とするとともに、派遣労働者や一人親方と称される個人労働者も対象とすることとしました。

 第2に、群馬弁護士会からも強く指摘されている、条例制定の最も重要な規定である「労働者の下限報酬額」の規定を加えました。
修正案の19条第2項で規定しましたが、当面は本市の契約実績を踏まえ、公共工事に係わる契約のうち9000万円以上の工事契約を対象とし、下限報酬額を農林水産省及び高度交通省が公共工事の積算に用いるため毎年度決定する公共工事設計労務単価と定めました。これに該当する本市の平成23年度実績は、24件で契約金額は約75億7千万円であります・

 さらに、1000万円以上の業務請負や指定管理者により行われる管理については、業務の標準的な賃金と認められる額を市の規則で定めるものとしました。これに該当する本市の平成23年度実績は、業務委託契約では27件契約金額は約5億6千万円、役務契約では98件、約44億円、指定管理者の協定では28件、指定管理料は約16億9千万円であります。

 また規則で定める場合も適正妥当な報酬額を決定するために、専門性・客観性及び透明性を高める必要があるために第25条で公契約委員会を設置し、第3者委員会で審議して市長に最低額を答申することとしました。

 公契約において、労働者の下限報酬額を規定し、労働者の最低賃金を相当程度引き上げることは、公契約で確保すべき公共工事や公共サービスの質を高め、市民の経済活動の活性化に資するとともに、地域経済の健全な発展につながるものであります。

 なお、市当局は、実施したパブリックコメントへの回答やわが党の今議会の質問に対する答弁で、「労働者の報酬は労使で決定すべき事柄」と繰り返し述べていますが、そのような見解は公契約条例の制定目的を否定することにつながる考え方であり是認できません。

 そもそも公契約条例で受注者に一定金額以上の労働者への賃金支払い義務を課すことは、契約当事者間の合意に基づいて相手側を拘束するものであって、公権力を振りかざした規制に基づく義務ではないことから、最低賃金法には抵触するものではありません。2009年3月6日付の当時の麻生太郎総理大臣の民主党の国会議員への質問趣意書に対する答弁書で、「条例において、地方公共団体の契約の相手方たる企業等は、最低賃金法第9条第1項に規定する地域別最低賃金において定める最低賃金を上回る賃金を労働者に支払わなければならないことと定めることは、同法上、問題となるものではない」と答弁しています。
 
 また、下限報酬額の設定は、公契約の相手方の事業者に限定して、市が定める賃金以上の支払い義務を定めるものであり、事業者は、契約自由の原則により市と契約するか否かの自由を保障されており、市が直接労働契約の内容に介入するものでもありません。
 さらに対等な当事者間の合意を根拠とする以上、優越的地位の濫用には当たらず、市が不当な利益を得ることもないので、独占禁止法第2条9号各号が定める「不公正な取引方法」のいずれの類型にも該当するものではありません。

 今、公共工事の入札では、低価格競争によって実際に支払われている労働者の賃金が「設計労務単価」を下回り、その水準が次年度の設計単価に反映され、毎年値下げが続くという悪循環になっています。このような中で、公契約の受注をめざす企業間の価格競争が激化し、結果として現場で業務に直接従事している労働者に低賃金が押し付けられているのです。このような悪循環に歯止めをかけ、労働者の労働条件の現状を改善するためには、公契約における下限報酬額を条例に明記しなければ、条例制定の最大の目的が確保できません。

 また、第19条の1項7項には、受注者は対象労働者に下限報酬額や労働条件などの公契約内容を労働者に文書で周知することを義務づけました。
 対象労働者が、支払いを受けた賃金などについて異議がある場合に申し出が出来るとしても、申し出先を知ることが出来ず、申し出をすることで不利益な扱いをされるのであれば、労働者は申し出をすることを萎縮し、事実上異議申し出をすることは期待できなくなるので、このような事態を回避するために、労働者への周知を図ることを条例に盛り込みました。

 また、事業場への掲示は、受注者においても、条例に定める事項を遵守することを客観的・外形的に意識することが可能となるので条例に規定したものです。
さらに、基本条例第16条で履行体制の適正化についての定めがありますが、必要な措置と定めるだけで、具体性が全くありません。

 したがって、修正案では、とくに賃金水準の確保のために、事業者等に下請負を行なう場合の相手先や下請負額などの報告を求めるとともに、労働者に支払った賃金台帳の作成やその写しの提出を求めるなど、条例に定める事項の遵守を担保する具体的な条文を加えました。
 また、条例に違反した事業者に対する是正措置については、是正の指導勧告にとどまらず、指名停止や公契約の解除、損害の賠償、重大な契約違反の場合は違反者の公表などの措置を条文に具体化しその実効性を担保しました。
また、先にも述べましたが、公契約に従事する労働者の下限報酬額や条例違反の事業者に対する是正措置などを第3者委員会で審議するための公契約委員会の設置に係る定めを25条と26条に定めました。

 以上修正案の中心点を説明させていただきました。言うまでもなく、公契約条例制定の目的は公契約における公正な競争と公正な労働の実現であり、自治体が発注する仕事に従事する労働者の生活の安定に寄与するものです。同時に、地域の事業者にとっては、経営の安定などのメリットが拡大され、自治体にとっては、社会資本整備や公共サービスの質や安全を確保することが出来るとともに、市税収の確保にも結びつくものです。

 今後とも公契約に係わる事業実施にあったては、福祉の増進を最大の目的としつつ、費用対効果をしっかり見定めて、過大な公共投資や安易な民間委託を行わず、市場万能主義にも陥ることなく、少子高齢化社会に対応した持続可能な地域社会作りをめざす行政運営をめざすべきです。

 最後に、わが党市議団は、市長提案の基本条例案を全面否定しているものではありません。何よりもさらに一歩踏み込んだ実効性のある公契約条例制定を強く願って修正提案をさせていただきました。ぜひとも、各議員の皆さんにおかれましては、本修正案に賛同していただきますようお願い申し上げまして、提案理由説明と致します。

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